それまで好きだったものが、突如として嫌いになってしまうことがあります。

 逆に、それまで毛嫌いしていたものが、愛おしくなることもあります。

「伯爵のカクテルをください」
 扉の音がはっきりと聞こえるほどに静かな空間に足を踏み入れた若く細身の、色白ではあっても華奢な印象を与えないその男性は、バーテンダーの『いらっしゃいませ』の言葉が終わると同時にそう告げると、そこが彼の指定席なのだろう、カウンターの一番端に静かに腰を下ろしていた。
 やがて彼の手の前に、静かにグラスが滑り込む。
 それはまさに伯爵の、気品溢れる美しい指を飾るにふさわしいような、鮮やかな彩りのルビーが溶け込んでいるかのように感じられた。