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小説『三幕の殺人』:アガサ=クリスティー

Posted by 倖成卓志 on 21.2009 物語の中で 0 comments 0 trackback

 アガサ=クリスティといえば、「灰色の脳細胞」エルキュール=ポワロ、片田舎の老嬢・ミス=ジェーン=マープル、夫婦探偵・トミーとタペンス、幸せを与える・パーカー=パイン、謎のクィン氏など、多様な主人公たちを使った様々な物語があります。

 ポワロの作品群としてはあまり有名ではありませんが、こんなものもあります。

『三幕の殺人』(原題:『THREE ACT TRAGEDY』)です。

 参照文献:『三幕の殺人』ハヤカワ・ミステリー文庫。著者:Agatha = Christie 【アガサ=クリスティー】。訳:田村隆一。



 なぜこれを取り上げるかというと、もちろんお酒が登場するからです。

  -    Ψ    -    Φ    -    Ψ    - 


 1988年発刊の解説文では、

引退した俳優が自宅で催したパーティで、善良な老牧師がマティーニを口にしたとたん苦しみだし、死亡した。数ヶ月後、今度は俳優の友人の医師が、自宅で催したパーティの最中に、ポートワインを飲んで死んだ。出席者も、死の状況もまったく同じだった。犯人はいかにして狙った人物に毒入りグラスをとらせたのか? 二つの死にはどのような関係が? ポアロは大胆な仮説を組み立てた……ミステリの女王の中期の代表傑作!

 となっています。2003年に発刊された新訳では、和訳が多少変わっているかも知れませんが、ここでは手持ちの1988年訳本を主体に話を進めます。


 さて、Martini 【マティーニ】といえば、「カクテルの帝王」とまで呼ばれる定番中の定番ですね。
 ジンとヴェルモットを使うだけという非常に簡単なレシピであると同時に、愛好家たちがそれぞれに自分なりのレシピを持っていて、「パーソナル・ティーニ」などと呼ばれることもあります。ジンの比率を変えたり、ビターズやオリーヴを使ったり、使わなかったり。ついには、ジンもヴェルモットも関係なく、ただ自分の好きな酒を混ぜて「○○マティーニ」と勝手に名前を付けてしまっている場合もあります。
 さて、この作品中でカクテルは非常に重要な位置に置かれています。解説文にもあるように、第一の殺人が、マティーニを飲んだことから始まります。

 ところで、内容についてはあまり深く触れないようにします。これはカテゴリー「物語の中で」で扱う内容が、書評や解説ではなく、様々な物語の中で酒がどういう扱いになっているかに着目した分野にしていきたいからです。

 ポイントはひとつ。この物語の冒頭から登場する、元俳優のチャールズです。最初の事件はパーティーで起こるのですが、その時参加者たちのためにカクテルを作っていたのが彼です。そのためか、この不思議な事件を解くべく自ら探偵役を買って出ようとするのです。
 ところが、彼がカクテルを作るシーンはその後も出てくるのですが、何のカクテルを作っているのかというシーンは全くありません。
 ポワロの事情聴取に女中が答える場面でも、

(前略)私はただ瓶を持ってまいっただけでございます - ベルモットと、ジンと、それにいろいろと -

 と、マティーニの材料となる2つのお酒しか名称は出てきませんし、

(前略)ご主人さまは、お酒をまぜて、それをお振りになってから、グラスの中にカクテルをおつぎになりました。それから、私、そのお盆をもって歩いて、お客さま方に差し上げたのでございます
 
 とだけ。
 つまり、カクテルが「カクテル」というで名称しか出ていないのです。仮に最初のパーティーで、チャールズがマティーニだけを作っていたというのなら、全然構わないのです。しかし女中が「それにいろいろと」と言ったということは、それ以外にも何か作っているはずなのです。第一の被害者が、たまたまマティーニを手にした、というだけで。
 しかも、それ以外の場面では、マティーニを作っていることすら表示されていないのです。ただ、「カクテル」と。
 もっとも、これはカクテルを扱っている物語ではないのだから、個別の名称をわざわざ挙げる必要はないのでしょうが。


  -    Ψ    -    Φ    -    Ψ    - 



 ところが、これとは別の作品で、答えが出てきます。というか、私が答えだと思っているものです。

 短編『砂浜にかかれた三角形』(原題:Triangle at Rhodes) (短編集『死人の鏡』(原題:Murder in the mews)収録。)
 参照文献:『死人の鏡』ハヤカワ・ミステリー文庫。著者:Agatha = Christie 【アガサ=クリスティー】。訳:小倉多加志。




 ここで、妙な場面がいくつか出てきます。物語上のではなく、カクテルとしての。
 場所はエーゲ海のロードス島。その浜辺に登場人物たちが集まっています。そこにヴァレンタインという女性が出てきます。彼女のセリフに、
「ダグラス……ピンク・ジンをお願い……あたし、あれを飲まずにおれないの」
とあり、その後の場面でチャントリーという男が、
ピンク・ジンを立てつづけに、五、六杯あおいだ。


 さて、これについてはひとまず置いて、この後に、登場人物たちがいろいろと注文します。
出てくるのは、ピンク・ジン、ウィスキー・ソーダ、ジン入りのジンジャー・エール、サイドカー、オレンジ・エード、などなど・・・。ポアロは、
「シロップ・ド・カシス」「・・・しかし、リキュールじゃありません」とちょっとおかしなことを言いますが、これもちょっと置いて。
 その他は、カクテルだのノン・アルコールの飲み物だのと言われて何となく思いつく名前の羅列です。さて、「ピンク・ジン」とはいったい何でしょうか?

 知らない方は、何となくでいいのでイメージしてください。ジンは強いお酒だということは分かりますね、何となくであっても。では、「ピンク」と付いているので、それはきっと女性的な、ファンシーな代物じゃないかと、そう考えてしまうかも知れません。
 実はこれ、少なくとも女性がほいほいと注文するようなカクテルじゃないんです。

  -    ☆    -    ☆    -    ☆    -    ☆    - 


Pink - Gin 【ピンク・ジン】

 基酒:Gin 【ジン】
 技法:シェーク
 度数:41度
 グラス:カクテル・グラス

 レシピ
 Gin 【ジン】 1glass.
 Angostura - Bitters 【アンゴスチュラ・ビターズ】 2dases.

 ジンにアンゴスチュラ・ビターズを入れただけのカクテルで、色合いがほんのりとピンク色(というよりは薄い黄色)になることから名付けられたと思われます。名前とは裏腹に、ジンをそのまま飲むようなもので、とても「女性が頼む」とか「五、六杯立てつづけに飲んだ」などというものではないのはお分かりでしょう。
 これをシェークさせずに、リキュール・グラスの中にアンゴスチュラ・ビターズを入れてグラスの内側に付着させ、余分なビターズを払い落してジンを注いだだけのGin & Bitters 【ジン・アンド・ビターズ】というものもあります。
 また、アンゴスチュラ・ビターズをオレンジ・ビターズに変えて、Yellow Bitters 【イェロー・ビターズ】
というカクテルにすることもできますが、いずれにしても「気楽に飲めるカクテル」ではありませんね。

 つまり、著者であるアガサ=クリスティはカクテルのことをあまり知らないんじゃないか、とそう思えるのです。知っていて、皮肉のつもりであえてピンク・ジンという名前を出してみたという、そういう見方はまずありえないでしょうね。分かって、笑える内容でもないので。
 素直に見れば、登場人物たちの注文したものも、酒を飲まない人から見た、酒のイメージでなんとなく名前を拾ってきた、とそんな感じ。
 先に挙げたポアロの「リキュールじゃありません」というのは、Kir 【キール】で使われるCrème de Cassis 【カシス・リキュール】のことではありません、ただカシス(黒すぐり)をシロップにしただけのもののことですよという意味の注意です。
 『死人の鏡』は1937年の発表作で、カクテルのキールが登場したのは第二次世界大戦中と言われていますが、カシスのリキュール自体は19世紀中頃にすでに登場していますし、デザートで使われるので、彼女が知っていることに関しては何の不思議もありません。

  -    ☆    -    ☆    -    ☆    -    ☆    - 


 つまるところ、カクテルのことをあまり知らないけれど、なんとなくカクテルといえば「マティーニ」。「マティーニ」と言っておけば間違いないだろう、と。ジンとヴェルモットしか使ってませんし。
 実は他の物語や漫画などでも「カクテルといえばマティーニ」というような表現だけのものをいくつか見受けました。それを飲んだ人物の感想も「すごく強い酒を飲んだ」「一気に酔っちゃったよ」というそれだけにとどまっている。今ではあまり使われないイメージで(でもTVドラマなどでは演出として使われているらしいですが)、バーで男性がマティーニを飲んで、連れの女性は何だか分からないカクテルを飲んで、「わたし、酔っちゃったわ」という実に安直な手段。映像としては効果的なのでしょうか。
 もっとも、近頃ではれっきとした酒飲み(ただの酔っ払いにあらず)がずいぶん減っているようなので、「マティーニ」と言っても分かってもらえず、カクテルといえばジュースをアルコールで割っただけの缶入り飲料をイメージされると、それはとても悲しい。

 お酒を飲むたびに何かをいちいち考える必要もないけれど、ただ酔えればいいというだけものじゃないんですけどね、お酒って。
 そういう感覚、これから先は失われていくのかな。

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 物語に登場するお酒の話題、第二弾でした。第一弾の『長いお別れ』から1年以上空いてしまいましたが、イメージとしては「お酒の扱いって軽いな」というものでした。何となく飲んで酔っ払っていい気持ちになるだけの嗜好品って感じで。
 フルーツ系のカクテルも度数の低いものばかりで、ハードなカクテルとかリキュールなどはどんどん飲まれなくなってしまうのだろうか。

 ひとつだけ言えるのは、酒の飲み方を教えることができる大人の数は確実に減るのでしょうね。それはそれで寂しいものがあります。




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