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Cocktail - 第29回 王者の贈り物(The Gift of the Prince)(その2)

Posted by 倖成卓志 on 02.2008 悠久のカクテル 0 comments 0 trackback
 柿渋色の無地紬に、足袋をカランカランと鳴らして歩く様は、今ではすっかり古風というもので。タバコなんて無粋なものじゃなく煙管 【きせる】 を銜えて、それを吹かす仕草となれば、それは『粋』というやつで。

「・・・そんな格好で歩いてる人って、もういないわな」
「見かけませんね」
「でも正直、そういうのには憧れてるんだな。俺は」
「そうなんですか」
「ブランド物の服だとかアクセとか、茶髪とか、そういうのあんまり好かなくてなあ。烏の濡れ羽根色した長い髪に、鴇色 【ときいろ】 の浴衣着た女性って惹かれるね、すごく。フローリングだとか、西洋風のケバい家なんかじゃなくて、畳敷きに障子、和の家っていうのが何より最高の贅沢だぜ、本当に」
「和風が好きなんですね?」
「違う。和『風』じゃなくて、『和』だよ、『和』。囲炉裏の前で熱燗キューって、それが俺の夢だったりするわけだ」
「でも今飲んでいるのは、洋酒」
「これな、ジョニ黒な。昔は高級酒だったらしいから、親父には『飲むならジョニ黒』って言われててな。だから、俺がこれ飲んでるのは親父の代わりってわけだ。せめてもの親孝行のつもりだよ。これ以外の飲んでるの、見たことないだろ? 他はいらんよ」
「せっかくなんで、一度は他のものも飲んでみてくださいよ。たとえば、僕の好きなこのシーヴァス18・・・」
「いらん」
「じゃあ、同じジョニーでも緑のがあって・・・」
「いらん」
「バーボンのメーカーズ・・・」
「バーボンってメリケンのじゃないか。何でもケチャップ付けてるような国のなんか飲ますな。ケンカ売ってるのか? ジョニ黒、それだけでいい。何度も言わすな」
「メリケンって、本でしか見たことない言葉ですよ。それにしても、頑固ですねえ。そこまで固執しますか」
「こだわってると言えよ。偏屈とか、古臭いとか言われるけどよ。何も考えずに新しいものにヒョイヒョイと飛びついて、流行追っかけてるだけのアッパッパーより何倍もマシだと思うんだがね。俺としては」
「じゃあ、カクテル」
「あのなあ」
「しかも、古臭くて頑固者で、でもちょっとだけ寂しがりやの人のための」
  -    Ψ    -    Φ    -    Ψ    - 


Rusty- Nail
Rusty - Nail 【ラスティ・ネイル】
 基酒:Scotch 【スコッチ・ウィスキー】
 技法:ビルド
 度数:40度
 グラス:オールド・ファッションド・グラス

 レシピ
 Scotch 【スコッチ】 1/2
 Drambuie 【ドランブイ】 1/2

『錆びた釘』、転じて『古めかしいもの』という意味です。

  -    ☆    -    ☆    -    ☆    -    ☆    - 


「錆びた釘?」
「その通りです」
「古臭くて錆びた釘か。俺のそういう考え方は、もう時代遅れってか」
「違います。このカクテルは1960年代からハリウッドやアメリカ社会の名士たちに愛されてきたカクテルです。そして、21世紀になった今でも生き残っています。生き残って、これを愛する人たちがたくさんいます。なぜだと思いますか?」
「さあ。よく分からんけど、旨いから?」
「その通りです。人を惹きつけるものは新しいものとは限りません。古くて、しかしそこに意味があるものも、人を惹きつけてやまないのではないのでしょうか。古くても、良いものは残ります。古くても、それを愛する人がいるからこそ生き残っていて、これからも生き続けていくのではないのでしょうか」

  -    Ψ    -    Φ    -    Ψ    - 


 さて、なぜ「錆びた釘」あるいは「古めかしいもの」なのでしょうか。
 名前の由来について、「錆びた釘の色をしているから」とか、あるいは「イギリスで『古めかしいもの』を指す比喩だから」となっています。

 私なりの解釈ですが、『ドランブイ』だから『古めかしいもの』で、その象徴が『錆びた釘』なのだと思います。
 ドランブイとは何でしょう。
 前回(Cocktail - 第28回 王者の贈り物(The Gift of the Prince)(その1))、書いたようにこれはステュアート朝で代々受け継がれてきた、秘酒です。そして同時に、名誉革命によって追われた旧政権の秘宝です。
 新政権からすれば、いつまでも旧政権にこだわっている連中というのは、新しいことに対応できない守旧の者たちで、口を開けば「昔は良かった」と懐古しているようにしか見えない。新しいことに何でも反発し、あまつさえ社会を混乱に陥れかねない。そう映っても不思議ではありませんね。
 いつまでも古いものだけを大事にしている。家のあちこちに打ち付けられている釘は、今ではすっかり錆び付いている。板もすっかり腐食してる。それでも、新しいものに取り替えるなんて想像も付かなくて。
「とんでもない。これはね、私たちの王、可愛いチャーリー王子がここに立ち寄られた証拠なの。私たちに残されたラスティ・ネイルなんだよ」

  -    Ψ    -    Φ    -    Ψ    - 


「温故知新という言葉があるね。『論語』の「為政篇」に出てくる言葉だ。『故 【ふる】 きを温 【たず】 ねて、新しきを知れば、以って師と為るべし』、だ」
「はい」
「過去のことをしっかりと学ぶ。それを踏まえた上で現状をしっかりと見る。そして判断することが大事というわけだ」
 素早く動いた彼の手は、グラスをしっかりとつかんだ。
「古きを愛し、新しいことにも挑戦していく、か。贈られたものは、無愛想に付き返すのは野暮だねえ。君の心尽くし、ありがたくいただくとするか」

  -    Ψ    -    Φ    -    Ψ    - 


 さて、このラスティ・ネイル。スコッチは何を使いましょうか。

 ウィスキー・ベースのカクテルを作る(もしくは作ってもらう)時に注意すべきことのひとつに、種類が挙げられます。バーボンなのか、ライなのか、スコッチなのか、あるいは何でもいいのか。
 この場合はスコッチですね。スコッチ・ウィスキーなら何でもよろしい。
 さて、一流のバーテンダーさんがよく使うのが「Talisker 【タリスカー】」で、これが最高だと言われているそうです。果たしてそうでしょうか。
 ドランブイ社によれば、「滑らかで味わい深いウィスキー」を使えば良いとあります。私もこれに賛成です。私のお勧めは、WHITE HORSE 【ホワイト・ホース】というブレンデッド・ウィスキーです。



タリスカーでは、力が強すぎる気がします。ピンと一本、筋が通るような力強さを感じさせてくれるのですが、艶かしさが少々失われるような気がします。
 それに比べると、柔らかなこちらを使った場合には、味わいがより複雑に絡み合い、香りにも深みが増して、とろけるような感覚へと変化していきます。何よりも大いに感じさせてくれる蜂蜜の優しい甘味が、緊張した心と体を包み込んでくれるかのようです。

 では、なぜバーテンダーさんたちの中にタリスカーを一押ししている人がいるのかといえば、「タリスカーが好きだから」と言われたらそれまでなのですが、別の理由もあると思います。
 それが、個人の意見でなく誰かの受け売りだとすれば、つまり「ラスティ・ネイルにはタリスカーを使うものなんだ」と聞いたとしたなら、その受け売りの元は一体どこの誰なのでしょうか。

 お分かりでしょうか。
 それは、スコットランド人たちの、心のカクテルであるということが。

 ボニー・プリンス・チャーリーが、スコットランドにおいて最後に逃げた場所はどこだったでしょうか。スカィ島ですね。チャーリーがマッキンノンに渡した秘酒のレシピと、スカィ島にある唯一のウィスキー蒸留所であるタリスカー。これらが組み合わされたのが、タリスカー・ラスティ・ネイルというわけです。スコットランド人にとっての、哀愁と懐古の組み合わせなのですね。

 甘くても度数が高く、普段は肩肘張って身も心も疲れて切っている大人たちを、優しく癒すカクテルなのであります。




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