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Cocktail - 第36回 The Red and the Green Vermouth(赤と緑のヴェルモット)(その4)

Posted by 倖成卓志 on 04.2009 悠久のカクテル 0 comments 0 trackback
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 ぼくは仄暗い一室で、ろうそくの明かりだけを頼りとしながら、空になったヴェルモットの瓶をジッと見つめていた。艶めかしいつけぼくろのあの女性は、今頃どこで何をしているのだろう。そして、あの時の自分は何と若かったのだろう。

 貴族たちの集うダンスホール。
 父親が男爵。ただそれだけで、自分はここにいる価値のある人間だと、選ばれし高貴な身分の者であると錯覚していた。そのことを誇らしげにしていた。「きみがぼくにふさわしいかどうかは、ぼくが決めることだ」、そんなことを言った気がする。そこにいた女性は、目つきが鋭く、顎は細く、ライオンのたてがみのようなブロンドの髪を持った、野性味あふれる女性。今までに出会ったことのないタイプに、戸惑ってしまったのかもしれない。冷静な対処なんて出来なかったのだ。彼女はきっと怒っていたのだろう。ぼくはあまりに高慢すぎた。ただ素直な気持ちを伝えるだけで良かったのに。彼女はそれまで飲んでいたマティーニを激しくテーブルへ叩きつけると、ぼくを力強く引っ張り出していた。そしてホールの真ん中で情熱的なタンゴを踊りだした。曲目なんてなかった。ただがむしゃらに、情熱に身を任せるように激しく踊っていた。周りが唖然とする中、ぼくは一緒になってひたすら踊った。いや、彼女のペースで踊らされていたというのが本当のところだろう。彼女はぼくよりも少しだけ背が高く、力も強かった。ついていくのがやっとだった気がする。そして彼女は、額に汗を浮かばせながら、にっこりとほほ笑むと、ぼくの唇を奪っていた。強く抱きしめられていた。魂から揺さぶられた、熱い口づけ。それが終わった瞬間、彼女は消えゆく後ろ姿だった。追いかけることも忘れて、ただその場をどう取り繕うか、家名を汚さないためには周りの人々にどう言い訳したらよいのか、そんなことを考えていた。違う、そうじゃない、その時考えるべきことはそんなことじゃないのに・・・。ぼくはまだ、若かったのだ。若かったくせに、情熱に身を躍らせることができなかった。若かったがゆえに、一瞬の出来事にパニックになって、何をすべきだったのか、まるで分からなかったのだ。

 あれからいったい何杯のマティーニを飲んだだろう。この冷めてしまった魂を揺さぶり、乾いてしまった心を潤してくれるものを見つけることができない。莫大な財産も、見わたす限りの広い土地も、豪華な家も、贅沢な食事も、高級な酒も、そしてそれから出会った数多くの女性たちも、ぼくの魂を満たしてくれるものはなかった。そう、ぼくは彼女を探し出すことができなかったのだ。あそこにいた誰もが、彼女の正体を知らなかった。どれだけ手を尽くしても、どれだけ時間をかけても、あの踊りの続きを手に入れることはできなかった。

 あれからいったい何杯のマティーニを飲んだだろう。いまのぼくは、手に入れようと思えば何でも手に入る。しかし、ぼくは果たして幸せなのだろうか。ただひとつのものだけが手に入らないというのに。ろうそくの明かりが揺れる。一人でいるにはあまりにも広すぎるこの部屋で、あの時のヴェルモットの瓶だけが静かにテーブルでたたずんでいた。
  -    Ψ    -    Φ    -    Ψ    - 


Baron

Baron 【バロン】

 基酒:Gin 【ジン】
 技法:ステア
 度数:33度
 グラス:カクテル・グラス

 レシピ
 Gin 【ジン】 2/3
 Dry - Vermouth 【ドライ・ヴェルモット】 1/3
 Sweet - Vermouth 【スウィート・ヴェルモット】 2dashes.
 Orange - Curaçao 【オレンジ・キュラソー】 1tsp.

  -    ☆    -    ☆    -    ☆    -    ☆    - 


 貴族の階級のひとつ、「男爵」。

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Beauty-Spot.

Beauty - Spot 【ビューティー・スポット】

 基酒:Gin 【ジン】
 技法:シェーク
 度数:25度
 グラス:カクテル・グラス

 レシピ
 Gin 【ジン】 2/4
 Dry - Vermouth 【ドライ・ヴェルモット】 1/4
 Sweet - Vermouth 【スウィート・ヴェルモット】 1/4
 Orange – Juice 【オレンジ・ジュース】 1tsp.
 Syrop de Grenadin 【グレナディン・シロップ】 1/2 tsp.

  -    ☆    -    ☆    -    ☆    -    ☆    - 


 「つけぼくろ」の意。グレナディン・シロップは底に沈める。

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Tango

Tango 【タンゴ】

 基酒:Gin 【ジン】
 技法:シェーク
 度数:29度
 グラス:カクテル・グラス

 レシピ
 Gin 【ジン】 2/5
 Dry - Vermouth 【ドライ・ヴェルモット】 1/5
 Sweet - Vermouth 【スウィート・ヴェルモット】 1/5
 Orange - Curaçao 【オレンジ・キュラソー】 1/5
 Orange – Juice 【オレンジ・ジュース】 2dashes.

  -    Ψ    -    Φ    -    Ψ    - 


Soul-Kiss

Soul - Kiss 【ソウル・キス】

 基酒:Wine 【ワイン】
 技法:シェーク
 度数:13度
 グラス:カクテル・グラス

 レシピ
 Dry - Vermouth 【ドライ・ヴェルモット】 2/6
 Sweet - Vermouth 【スウィート・ヴェルモット】 2/6
 Dubonnet 【デュボネ】 1/6
 Orange – Juice 【オレンジ・ジュース】 1/6


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